現行モデルのカラーバリエーションは、MVアグスタのイメージカラーでもあるアゴレッド/アゴシルバーの組み合わせのみで展開されている
細身で端正なフォルムを持つMVアグスタのF3 800は、目の前にすると一層コンパクトだ。830mmのシート高は、このクラスのスーパースポーツとしては特別高くはなく、足着き性も良好。そのまま車体を左右に振っても車重はあまり感じず、物理的にも心理的にもプレッシャーは少ない。
シート高は830mm。ザラつきのある表皮が採用され、ハングオフ時のグリップ力を確保。パッセンジャー用の表皮は車体色との統一感が図られ、スポーティな雰囲気が高められている
ただし、サウンドは好戦的だ。吸気音と排気音にはざらつきが交じり、かなり荒々しい。加えてエンジンからフレーム、フレームからハンドルへと伝わる微振動が、それを助長。スロットルに連動し、それらが共鳴し合う様は野性味に溢れ、これから暴れ馬にでもまたがるようなヒロイックな気分になる。
とはいえ、やすやすと歩み寄れそうにない威嚇を感じるのはそこまでだ。トゲのある音質を意識から取り除き、エンジン特性だけに集中すると、トルクが驚くほど滑らかに沸き起こってくるのが分かる。クラッチをつなぐと車体はあっさりと押し出され、タイヤは軽やかに路面を蹴り出す。
600でも1000でもない800という排気量、2気筒でも4気筒でもない3気筒という形式。そのいずれもが絶妙で、トルクが希薄過ぎるわけでも、パワーが出過ぎるわけでもない、ちょうどいいところに落とし込まれている。
トルクを操れる3気筒の心地よさ
ここで言うちょうどいいとは、スロットルの開けやすさに置き換えることができる。3気筒ならではのキャラクターと言ってもよく、そもそもトルクを感じやすい形式なのだ。
現在、世の中に存在するバイク向けの並列3気筒は、120°に位相されたクランクピンを持ち、240°の等間隔で爆発を繰り返している(トライアンフ・タイガー900を除く)。この形式のメリットは、慣性トルク(エンジンの内部パーツが往復運動する時に発生する力)と呼ばれるエンジンの雑味を抑えられる点にある。
一方で、爆発そのものによって生じる力を燃焼トルクという。燃焼によってクランクが回り、ピストンとコンロッドが上下に往復するのだから、ふたつのトルクは表裏一体と言っていい。事実、スペック上のトルクとは、慣性トルクと燃焼トルクのふたつを足した合成トルクのことを指す。
しかしながら、エンジンが回転している限り、慣性トルクはライダーの意志に関係なく常に発生しているのに対し、燃焼トルクはライダーが操作するスロットルと直接連動。つまり、コントロール下に置きやすいのが特徴だ。
弾けるような高回転領域
例えばコーナー手前でいくつかシフトダウンし、エンジンブレーキを強く掛けながら車体をリーンさせたとする。その時、エンジン回転数が跳ね上がるぶん、慣性トルクは強大だ。反面、スロットルは全閉か、それに近い状態のため、燃焼トルクは小さい。
この差が広がれば広がるほど、燃焼トルクが打ち消され、エンジン特性としてはトラクションを感じづらくなる。等間隔爆発の並列4気筒がその典型で、そのデメリットを解消しようとしたのが、ヤマハ・YZF-R1のクロスプレーンエンジンだ。構造上、並列3気筒のトルクの波形はそれに近く、基本特性としてスロットルを開けやすい形式なのだ。
そういう理屈はさておいても、トライアンフやヤマハの3気筒で体感的に知っているライダーは多いに違いない。それらは基本的に低中速を重視した味つけが施されているが、高回転寄りに仕立てているのが、MVアグスタならではの個性だ。
事実、低中速のフレキシビリティは確保しながらも、F3 800の真骨頂は7,000rpmを超えたあたりから始まる。エンジンモードの選択を「SPORT」に切り換えた時にそれは顕著で、2ストロークエンジンにも似たフィーリングで、弾けるように回転が上昇。レブリミッターが作動する14,000rpm超まで一気に、そして力強く回り切る。
その時に発せられるノイズまじりのエキゾーストノートとバイブレーションに、不快な要素はない。むしろ心を高揚させ、アドレナリンをどんどん沸き立たせる装置として作用。それがなければ物足りなさを覚えるほどだ。
電子デバイスは、4パターンのエンジンマップ(ノーマル/スポーツ/レイン/カスタム)、8段階のトラクションコントロール、ABS(リヤタイヤのリフト量も検知)、シフトアップとダウンに対応するオートシフターを装備。フレームはトレリス構造のスチールパイプとアルミのピボットプレートが組み合わせられている
自由自在のリーンアングル
ハンドリングもいい。特に印象的なのは、フルバンクまであと20%を残したあたりの振る舞いだ。その領域での自由度が素晴らしく、あとひと寝かせするのも、少し起こしてワイドなラインを選ぶのも軽やかで自在。車体のリーンアングルを意のままにコントロールできる感覚は、リッタースーパースポーツではなかなか味わえない。
スタビリティを高めるための電子デバイスは比較的簡素で、トラクションコントロールとABS程度ながら、これもまたちょうどいい。
148hpの最高出力に対して、どこまでセーフティ機能を働かせるか。あれもこれもと付け加えるより、開発陣はスポーツライディングの醍醐味を残すことを選択したのだろう。並列3気筒エンジン、鋼管トレリスフレーム、マルゾッキ&ザックスのサスペンション、ピレリのハイグリップラジアルというよき素材を活かすため、化学調味料の類は必要最小限で寸止め。そこに、生粋のスポーツバイクメーカーとしての美学がうかがえる。
ハンドルとシートの距離は比較的短く、ライディングポジションはコンパクトだ。フロントフォークの減衰力調整は右側にリバウンド(伸び側)、左側にコンプレッション(圧縮側)が備えられている
Gをいなしながらコーナリングスピードを突き詰め、立ち上がりではスロットルをいち早く開けて加速態勢を整えるミドルスーパースポーツならではの醍醐味。そこに特化したイタリアのハンドリングマシンがF3 800である。
SPEC
- 最大トルク
- 88Nm 8.97kgm/10,600rpm
- 変速機
- 6速
- フレーム
- スチールトレリス
- 乾燥重量
- 173kg
- タイヤサイズ
- F=120/70-17 R=180/55-17
- 全長/全幅
- 2,030/730mm
- 燃料タンク容量
- 16.5L
- 価格
- 222万2,000円