A.加工に手間とコストはかかりますが
軽さや強度にコンパクトさで優位だからです!
ヨーロッパのメーカーはイタリア車を筆頭に、
パイプフレームが多く見た目にも魅力的です。
性能追求より感性を重視する趣味人が多いからですか?
燃料タンクやカウルにテールエンドなど、バイクのフォルムに好みはあっても、車体のそれも骨格部分のフレームの違いまで目が届くのは相当なマニア……と思いがちですが、たとえばメカニズムにほぼ興味のない女性ライダーに、赤いフレームがチャーミングポイントなどと仰る方もいて、徐々にトレンドになりつつあるのかも知れません。
対して日本製スーパースポーツといえば、1980年代半ばから帯状の中空アルミがステアリングヘッドとスイングアームピボットを結ぶ、シンプルな構成が40年近く続いてきました。エンジンや車体を共通化する大半のネイキッドも、この定番構成に収まったまま変化に乏しく、モデルチェンジされても新しさを感じさせない要因になっている気もします。
KTMの最新1290 スーパーデュークRもトレリス状のパイプフレーム
ホンダの限定市販レーサーのVFR750R(RC30)、ワークスマシン譲りのツインチューブの1987年製
三角形を組み合わせるいわばイタリア流の合理性の高さ
日本メーカーが大型バイクへ進出した1960年代後半から1970年代初めまで、フレームといえばメジャーだった英国勢を筆頭に、エンジンを載せるための骨格という位置づけでした。
それがイタリアのドゥカティや小メーカーのビモータなどが、排気量の小さなバイクで手がけてきたエンジンを強度メンバーのひとつとして利用する考え方を大型バイクにも採り入れたのです。
それもトライアングル、三角形を組み合わせる「トレリス」方式。英国勢の伝統的なエンジンを囲うタイプのクレードル形式のようにエンジン下側にフレームがありません。短いパイプの小さな三角形をふたつ以上組み合わせることで、押しにも引きにも強い状態が得られるメリットを、エンジン各部と結ぶことで軽く強固な車体としています。しかもひとつの3角形を平面として考えると、これを多面体として組み合わせていけば、エンジンの複雑な形状を包み込むような配置が可能です。
こうする事で、エンジンをフレームの剛体として利用することが可能となり、ドゥカティのような大柄なL型ツインでも、単気筒分のシリンダーだけ取り囲めばコンパクトな形状にできるなど、スリムで運動性に優位なメリットをさらに高めるという良いことづくめになっていくわけです。
フルカバードされた革新的なワンボディカウルのビモータdb1
中に収めておくのがもったいないトレリスフレーム。タンブリーニが去ったビモータでdb1やYB4で世界トップへ押し上げたマルティーニ渾身の作品だ
数々の革新的なメカニズムで日本車へも多大な影響を与えた1994年製ドゥカティ916。タンブリーニはこれをバネにMVアグスタ再興へと熱意を傾けていった
そのタンブリーニが自らセッティング……フレーム構成がよくみえる
一世を風靡したモンスターは1993年から製造。916と共にいま見ると心もとないほど細いパイプで構成されている。しかし世界のレースでそのまま通用する剛性と軽さを持ち併せていた
三角形を組み合わせるいわばイタリア流の合理性の高さ
ツインだけではありません。MVアグスタのように4気筒や3気筒でも、シリンダーや吸気系を巧みに避けながら取り囲む複雑な形状で、見事にコンパクトなフレームに仕上がっています。コンパクト、つまり強度でも優位なのはもちろん、パイプも大径肉薄とか場所によって使い分けることで、ツインチューブより軽量にすることも可能になります。ただ溶接など加工が複雑で、量産では手間とコストを考えればデメリットにもなります。このあたりが、メーカーによってコンセプトの違いが浮き彫りになる部分で、大量生産を前提とする日本メーカーには手の出せない領域でもあるのです。
ただいずれにせよ、趣味性を優先するためデメリットでも敢えてパイプフレーム……といった選択はあり得ません。ドゥカティに代表されるイタリアのエンジニアは、優位で勝てると信じてオリジナリティの高いほうへ突き進みます。
またエンジニア自らがマニアで、購入するファンにはより夢の大きなバイクを提供したいという気持ちが強いのは常に感じさせています。熱いバイク、そこが最優先されているのは、イタリアン共通の価値観といえるでしょう。
ということで、パイプ・フレームは敢えて懐古趣味にこだわっているのではなく、れっきとしたテクノロジー進化のひとつとして開発されているのです。
そのドゥカティも最新パニガーレでは、新しいV4 にステアリングヘッドを装着する異なる発想で構成されている。モンスターも新型からパイプフレームではなくなっている……その今後が注目されるところだ