A.公道用とはタイヤのコンパウンドの柔軟性が違います!
MotoGPなどを走るレーシングマシンには、
専用のスリックタイヤが使われています。
スリックタイヤには溝がないのに
なぜグリップするのですか?
スリックタイヤは表面を剥がしながらグリップ力を得ている
バイクのタイヤには、路面に接地するトレッド部分に様々なパターンの溝が刻まれていて、摩耗して溝が浅くなれば滑りやすくなります。対して、強力なグリップ力が求められるはずのレーシングタイヤは、最初から溝がないスリックタイヤが使われています。
溝がなければ接地面積が増えるという理屈なら、一般公道タイヤも溝がなくなるまで減れば、グリップが良くなりそう……そんな気もしますが、もちろんそんなことはありません。
スリックタイヤはトレッド部分のゴム質(専門用語ではコンパウンドと呼んでいます)、まさにこの混ぜ合わせて得るゴムの特性が一般公道用タイヤとはまったく異なっているのです。
一番の違いはその柔らかさ。タイヤが路面に押し付けられると荷重でトレッドが凹む変形も大きいのですが、トレッド表面のゴムも圧力で変形しやすく、路面を包み込むように密着して強大なグリップ力を発揮します。
ただこの状態をいかに維持するかが大きな課題で、限界時にやや滑りながら安定した状態でのトレッド表面温度は瞬間で100~140度にもなるのです。これは硫黄成分などを含め、複合した素材で構成される合成ゴムのコンパウンドを変化させてしまいます。
そこでレーシングタイヤはこの表面をどんどん摩耗させることで、この変化した部分を剥がしながらグリップ性能を維持するのです。
それとタイヤのグリップは、限界時にやや滑りながらとお伝えしたように、ただ食いつけばよいのではなくダンピング性能という一気にグリップを失わない減衰特性が重要です。スリックタイヤはトレッドのゴムが摩耗して薄くなると減衰力が急激にドロップしてしまいます。
つまり減ることでグリップを維持するものの、減りすぎるといきなり滑るという厄介な特性も併せ持っているのです。そのため、レース解説でよくいわれるように、ソフトかハードか……どちらを選んだかで、後半の走行ペースが極端に変わってしまうなど、レースを左右する大きな要因になってしまうのです。
走行前にタイヤウォーマーを巻いてあらかじめ温めておくのも、温度と性能が直接関係しているから。スリックタイヤが一般公道ではとても使えるものでないことはいうまでもありません。
レースで使われる溝のないスリックタイヤは、しなやかなコンパウンドが路面に密着して強力なグリップを生み出す。表面を摩耗させながらグリップさせているため、走行を重ねタイヤが減るとグリップとダンピング性能が一気に低下してしまう
路面状況の変化に強いスポーツツーリングタイヤ
対して皆さんが履いてる一般公道用のタイヤは、路面温度や路面の状態など様々な変化に対応できるように、コンパウンドはもちろん、トレッドに刻まれている溝が大きな役割を担っています。
たとえば溝の刻まれた縁を触ってみてください。当然ですがその角は柔らかいはずです。それと溝がある部分はトレッドに加え、内部にあるカーカスと呼ばれる繊維で構成されたタイヤの剛性を確保する部分も荷重によって変形しやすくなっています。
つまりこの溝は、雨が降ったときの排水効果も当然として、こうしてトレッドに色々な柔らかさを持たせることで、刻々と変化する路面に対応しているのです。だから摩耗して溝が浅くなると、柔らかさが不足し減衰力が極端にドロップして一気にスリップダウンの危険性が高まるのです。
このようにトレッドパターンの役割がわかってくると、ハイグリップタイヤとツーリングスポーツタイヤとの違いもイメージできると思います。
レーシングタイヤのつくりに近いハイグリップタイヤは、刻まれている溝も少なく路面の状況が良ければ性能が発揮されますが、温度が低かったり変化が著しい路面が苦手で、しかも摩耗しやすいコンパウンドををあえて使っているためライフも短かくなるというわけです。
そして近年、ツーリングスポーツタイヤは目覚ましい進化を遂げています。ヨーロッパなどのユーザーは、スーパースポーツでも、このカテゴリーのタイヤに履き替えるケースが多いというのも頷けます。
タイヤの表面に刻まれている溝は、排水性はもちろん、柔らかく変形することで刻々と変化する路面状況に対応している。そのため、溝の少ないハイグリップタイヤより、スポーツツーリングタイヤのほうが路面状況の変化に強いつくりとなっている