A.鼓動を楽しめるバイクは、いまでもあります!
最近のバイクは、どれもスムーズなエンジンばかりで、
ビッグツインもまたたく間に高回転まで回ってしまい、
鼓動感を楽しめないように思います。
最新バイクでは、もう感性を刺激するエンジンの鼓動は楽しめないのでしょうか?
そもそも、振動は技術的にはネガティブなもの
感じたことがあるライダーも多いと思いますが、心地よい鼓動と不快な振動はまったく違うものですよね。
数十年前のバイクは、エンジンの爆発の振動と歯切れの良い排気音……生きているかのような躍動感といった具合にエンジンの鼓動が表現されていました。
しかもこの鼓動は、爆発を感じやすいビッグシングルだけではなく、ツインはもちろん、スムーズさが強みの4気筒でも感じることができたものです。
空冷エンジン全盛期のバイクに多く感じられた感覚といえばそうかもしれません。
当時の空冷は最新の水冷に比べ、ピストンとシリンダーのクリアランスを多めにする必要があったため、あらゆることが緩めになっていて、そこに様々な振動を生じる要因があったのです。
この振動は、本来であれば技術的にはネガティブなものなのです。
というのは、ピストンの往復運動をクランクシャフトで回転運動へ変換するときに、慣性モーメントが残るということは、出力に対してブレーキをかける要素となることだからです。こうなると、その軸受けにも方向の異なる応力が働き、場合によっては熱も発生してしまいます。
つまり、より効率的なエンジンを開発するには、振動のないスムーズな状態をつくることが必然だったのです。エンジンの高出力化や年々厳しくなる排気ガス規制への対応で水冷化され、それらの過程でこの振動はかなり消されてきました。
“スムーズなエンジン”や“つくられた鼓動”はつまらない?
まるでモーターのように、爆発を感じさせないスムーズさは快適なはず……。
しかし、そのようなエンジンは、多くのライダーに「つまらない」と感じさせてしまうかもしれません。なんといってもバイクは感性で乗る乗り物、この勘どころを外すと好きになれないといった感情になってしまうこともあるでしょう。
そういったライダー心理に対応するため、パフォーマンス優先ではない初期の水冷化したアメリカンなどのカテゴリーで、この振動を“あえて”演出したバイクもありましたが、開発したメーカーの意図に反して人気車種にはなっていない……。 鼓動という表現は、“必然の中に生じているからこそ肯定的に感じる”からに他ならないからだと思います。
というワケで、技術的な理由からいえば空冷であることが鼓動を感じやすい素性のひとつと言うことができると思います。
排気ガス規制などで出力的には不利でも、いまも空冷エンジンをつくり続けるメーカーがあるのはご存じの通り。以前のように、手が痺れるような振動はありませんが、鼓動は充分に感じられると思います。
最新バイクにも鼓動はある
ただし、トラクション性能を有効な旋回能力へと効率を向上させるために、爆発間隔などに独特な工夫を凝らすバイクが増えてきているのも事実で、最新のバイクは鼓動を感じさせるものが増えているとも言えます。
そして、モーターのようなエンジンは通用しなくなってきているとも言えるでしょう。試しに高いギヤに入れてアイドリングより少し高めの回転域からスロットルをグイッと大きくひねってみてください。そうすれば、その鼓動を感じることができるはずです。このレスポンスが、バイクがライダーに操られ、それに応えてくれる証なのだと思います。
それでも、空冷エンジン全盛期の感性を震わせるような振動でなければ鼓動ではないというライダーには、クラシックバイクに乗ることをおすすめします。僕自身、そんなクラシックバイクの趣味性やノスタルジックに浸りたくなり、クラシックバイクを所有していたこともあるひとりですから。
次々に空冷エンジンを搭載した新型車両を発売するロイヤルエンフィールド。もちろん新型車両はユーロ5の厳しい排気ガス規制に適合。270度クランクを採用し、不等間隔爆発を採用することでクラシックバイクのような鼓動感を生み出している
- Words:
- 根本 健
- Photos:
- 真弓悟史