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Q.どのくらい積極的に走れば楽しいと怖くないを両立できますか?【教えてネモケン153】

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ツーリング先でもカーブを楽しく走りたいと思うのですが、曲がりながら加速するトラクションは一瞬その感覚がわかるものの長い区間で使い続けるのは怖さとリスクでイメージできません。コーナーを攻めるような走りは望んでいないので、どのくらい積極的に走れば楽しいと怖くないを両立できますか?

A.トラクションはライディングを楽しもうとする気持ちを満足させる基本操作のひとつ。でも加速すればスピードが出てしまう→曲がりきれなくなるといったリスクと背中合わせに感じがちです。そのためにリスクを増やさない操作のコツがあります。

トラクションはなぜ安心感と共に曲がれるのか?

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まずトラクションとはどんな効果をもたらす操作なのか、その基本からおさらいをしておきましょう。
山間を走るワインディングには、標高差から登り坂のカーブと下り坂のカーブがあります。

そこで誰もが感じる登りカーブのほうが安心できる原因は、登り勾配のためずっとスロットルを開けた加速状態を維持しているからなのです。
これは懐かしい一輪車を漕ぐときと同じ原理。
路面を蹴るチカラが方向を決め、安定した進路となる効果があるのはご存じのとおり。

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この効果を高めるため、オートバイにはアンチスクワットという仕組みが採り入れられています。
オートバイは加速するとリヤサスが加速Gで沈むと思いがち。
でもそれではカーブで旋回中に加速したら後輪は路面から離れる方向へ応力が働いてしまい、スリップしやすくなってしまいます。
そうならないよう、スイングアームのつけ根にあるピボット(軸)の位置を高くして、駆動力でチェーンが引っ張られると後輪との距離の関係で路面に対し押し付ける方向、つまり相対的に車体の後ろがリフトされることになります。

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これはエンジンをアイドリングのままフロントブレーキを握り発進しないようにして、ギヤをローに入れてクラッチを徐々に放してみましょう。
そのままクラッチを繋いだらエンストしてしまいますが、その手前でシートがグッと押し上げられる反応があるはず。

これがアンチスクワット、つまり駆動力が加わるとしゃがまないようになっている原理です。
走っていると注意しないと気づきにくいのですが、シートに座ったお尻が持ち上げられる感じが加速を始めたときにあるので、直線で前後に交通のない状態で確かめておきましょう。

曲がれる加速力はスロットル開度とグリップの質と効果の高い回転域を使い続ける

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しかし加速すると曲がった状態が強まって安定するといっても、加速すればスピードも出てしまい曲がりきれなくなるかも知れないリスクを伴います。
そこを解決する鍵が、このトラクションの原理と加速するときのスロットル開度、そして使うエンジンの回転域の関係にあるのです。

イラストのボートを漕いでいる最初にシーンは、ゆっくり大きくオール(櫓や櫂)を濃いでいます。
漕ぐたびにグーン、グーンと力強く加速しますが、ゆっくりストロークしていると速度はあまり変化しません。
対して下の忙しなく短いピッチで漕ぐようにすると、速度は上昇しますが加速している感じが失われます。

これがエンジンでいうところのトルク馬力の関係のようなもの。
つまりエンジンの低い回転域にはグイグイと力強くプッシュするトルク域があり、高回転域にはスピードを出すために必要なエネルギーを連続して発揮する高回転域のパワーがあるというワケです。

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そのトルクですが、エンジンの性能曲線にあるように回転が上昇すると一定のチカラになってしまう台形のカーブを描いています。
もうおわかりだと思いますが、カーブで曲がりやすい後輪の回転が刻むように路面を掴む、パルス(爆発で生じる脈動)効果もある低い回転域のほうがトラクション効率が高くなります。

もっといえば、エンジン回転が高くなってしまうと速度は上昇しても曲がれるチカラは相対的に減ってしまうのです。
勢いがある高回転域のほうが曲がれるチカラもあるということにはなりません。

車体を傾けたままできるシフトアップと身体のあずけ方で変わる曲がれるチカラを覚えよう!

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この曲がれるエンジンの回転域を、カーブでより効果を高めるのと、長い距離と時間で使い続けるにはコツがあります。
まずスロットル開度。

カーブをエンジン回転域でいうと中速~高回転域のまま、加速しないよう僅かしか捻らない開度で走っているライダーが少なくありません。
これはパーシャル・スロットルといって、加速も減速もしない状態ですが、直線を一定速度で走るときならともかく、曲がっているときにクラッチを切ると不安や怖さを感じるのと同じで、ただの惰性で走る曲がり方が安定も強まりもしない状態といえます。

これを低い回転域で大きめの開度まで捻ると、ボートをゆっくり大きなストロークで漕ぐのと同じ強いトルクで曲がれるチカラが路面を蹴るのを感じることができます。
低い回転域はスロットルを大きく開けても、内燃機関の特性でいきなり飛び出すような鋭い加速にはならず、タイムラグのあるような穏やかなレスポンスにしかなりません。

この違いをこれも予め交通量がないのを確認した直線路で試しておきましょう。
安心してスロットルを大きく開けられるようになるには大事なプロセスなので、必ず確認しておきたいひとつです。

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ちょっと急ぎたいから、目の前のクルマを反対車線に出て一気に追い越す……黄色いセンターラインでないから良心的?とか妙な言い訳しながら、ややラフな行動になるときって多い気がします。
もう一歩慎重であれば、そこで何十秒か余計に時間を費やしたトコロで何の違いがあるのか、そう思えて一歩引く気持ちになれます。

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これをまずは小さな曲がり角の曲がりきる最後、いわゆる立ち上がりのトコロで高めのギヤと低い回転域で確かめてみます。
曲がれる強さと安定感のセットが、この低い回転域と大きめのスロットル開度で得られるのが実感できます。

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しかし小さな曲がり角のように短い距離はトラクションが得やすくても、長いカーブだとエンジン回転も速度も上昇していまい、安心して曲がれる状態ではなくなります。
そこでこの安心と効率の良さを繋いでいくため、エンジン回転が中速域へ達する前に次のギヤへシフトアップします。

でもシフトアップはクラッチを切ってギヤを操作してクラッチを繋ぐ……という操作は加速が途切れるだけでなく車体が揺れるショックも誘発しやすくなり、慣れないと怖くてそんな操作はする気にもなれません。
そこでイラストにあるように、クラッチは切るのではなく触る程度しか操作しない、スロットルも戻すのではなく一瞬手首でスナッチする程度、ギヤチェンジもこの一瞬のタイミングに即座に済ませてしまう、そんな一連の操作は素早く小さくがコツ。

これもまずは直線でショックンがでない操作になるまで練習しましょう。
パワーシフトやクイックシフタート呼ばれる機能がある機種なら、加速したままチェンジペダル操作だけです。
その装備がなくても、むずかしいようで低い回転域だと意外なほど簡単にできるようになります。
ぜひ覚えてカーブを安心と楽しいを両立できる状態を手に入れましょう。

ライダーはバイクまかせの受け身でいるより、自分が操作している時間の割合が増えるほど、安心と楽しさが増えるもの。
忙しく操作しているのも、適度な緊張を途切らずにいられるという意味でも、こうした積極的な状態をキープするほうがバイクライフにはプラスに働くのは間違いありません!

Photos:
藤原 らんか,DUCATI